老人介護のエピソード

 

(8)何処か臭い! ウンチ騒動

 前掲の転倒騒動があってから数ケ月経ったある日、私の居室でパソコンに熱中していたら、20m近く離れたトイレの無線式の緊急通報が傍で鳴り始めた。すわ大変!と、私設無資格救急隊員が急いで駆け付ける、パンツもロングパンツも便器や床もウンチだらけ。親父は下半身丸裸で震えている。

 実家にはミシン室がある。部屋と言える程広くはないが3帖たらずの南に面したTの字を90度左回転した形のスペースで玄関を入って左のドアを開けた所にある。

Tの字の水平バーの右下部分がドアで開けるとトイレに繋がる廊下なっている。トイレは幅約90cm×長さ150cmの広さがある。計画的か偶然か知らないが、これが後にトイレ内介護に大変役立つ結果となっている。トイレの前の廊下を挟んで2部屋が続き、その南面が廊下である。初めの部屋の南側が玄関で次の部屋の端で廊下が終わり、その突き当りが応接室である。つまり、T字の右端に洗面所とトイレがあり反対側を延長して廊下。三つの部屋が襖(襖で)隣接した形である。親父の居室は応接室に隣接した真ん中の配置になる。

 廊下を背にして一番奥の応接室を左へ曲がって通過すると長4畳(実際は納戸になっていて実質5.5畳)の板の間が電話室兼納戸で洋服ダンスと電話が置いてある。その部屋の突き当りが私の6畳の居室(元親父の書斎)で右に隣接して8畳広さのリビングキッチンがあり、東に面した形、流し台も東面でその前を通ると2階へ上がる階段がある。ベッドからは約10m近く歩いてトイレに行く。食事の場合も、ほぼ同じ位歩く。一旦廊下に出て応接間を通り、電話室を経て、リビングキッチンに辿り着く。古い家は広くて不便で掃除も大変だが、親父の寝室のこの配置が私の計画であり、年寄りを寝たきりにさせないために見事に効を奏した。即ち、寝たきり防止にさせないための策としては、とにかく歩かせるための工夫である。老人は歩かなくなると極めて早く確実に寝たきりになる。
歩かせるということは、その分介護は大変になるが覚悟の上のこと。寝たきりになるともっと大変であるからだ。前回の転倒事件を教訓に、トイレと親父の居室の入口には無線式の緊急通報装置を用意、廊下にもボタン電池式緊急用ベルを2か所取り付けた。

 さて、事情を尋ねてみると、排泄が我慢できず下着を下げるのもそこそこに座った途端に出たらしい。そこが老人の悲しさ、実はまだ十分に脱衣していなかったのである。急いで汚物で濡れた下着を取り替え、その後始末に追われた。仕事はまだ続く。翌日新しい絨毯(じゅうたん)を買ってきて、T型の変形の部屋や便器の形に合わせて裁断する寸法取りをしてところ、まだ何故か臭い! 臭いがある。 変だ!
よ~く観察してみると、廊下の絨毯にも残片がついている。もしやと思い、親父の足の裏をチェックすると予感的的中! せんべい状の塊がしっかりとかかとにカチカチに乾いて付着している。どうやら歩き始めた時から既に漏れていたようだ。結局、廊下まで絨毯を取替えるハメになってしまった。

失禁によるベッドの緊急通報やトイレの緊急通報で駆け付けることはしばしば(と言っても、月に3~4回程度だが)ある。この日も夜中に一度起こされ、二度目の出動は午前3時過ぎで、ダメ押しの一撃であった。散々の24時間勤務(?!)となってしまった。だが、この程度は序の口で、この種の事件は数多く発生する。

 滑り防止のため、すべての敷物はビョウで止めてあるので、取り替えるのもひと苦労である。あらゆる上がり口には、滑り止めテープが貼ってある。今回は事前に準備していた緊急通報装置が役に立つ結果となった。


ウンチ騒動から暫く経過したある日、

救急車で一命を取りとめる事件が発生!

 

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