老人介護のエピソード

 

(22)  親父の人生で最大の大怪我かも?

 前回は生活のリズムやパターンについて少し書いたが、親父のパターンの一つに食後にひと眠りするというのがある。それ自体は特に変わったものではなく、健常者でも昼食後に授業があったり、単純な事務作業では眠くなることはあるものでごく普通のことだろ思う。食後に10分か15分程度寝る習慣を持つ人もいる位である。食事が終わったら後片付けに約30分はかかる。夕食の場合は、朝の仕込までするので手早くしても1時間余りかかってしまう。朝だからと言って手抜きはしない。おかずは4、5種類準備するので1~2品は作るなり、下ごしらえなりしておかないと起きてからが忙しい。ひと通り作業が終わると、私はいつもの自分の居室でパソコンに向かう。多くの場合はブログの更新であったり、無料パソコン教室のリモート授業である。

 親父が部屋を出ると警報装置が作動することは以前に書いた。人感センサーによるチャイムが鳴っても、親父が10m近く歩いてトイレに行くにはかなりの時間がかかる。いつもトイレの扉を開ける頃に間に合うように遅れてついて行くことにしている。ところが別に認知症でもないわけだが、highdy が座っている後ろの方で歩行器をついて歩く音が聞こえることがある。

「お父さん、どうしたの?」

「……いま食事の準備ができたって呼ばんじゃったか?」 

「呼ぶわけないじゃん、1時間前に食事が終わったばかりじゃん」

「おお、それか~、へじゃ~(それではの意)、夢じゃったんじゃ~!」

明らか寝とぼけている。数か月に一度はあるケースで、食後に1~2時間寝ると直前の記憶が無くなるのか、寝とぼけることがある。夕食後のことが多い。

 私はいつも親父に0時過ぎまでは起きているが、それ以降は3~4時間は仮眠をすると言ってある。もちろん仮眠中でも、親父が障子を開けたことを知らせる警報装置が鳴れば、すぐに起きて介護に向かう。いつもは食後であるが、この時は真夜中の2時頃の話。寝とぼけたと推察されるのは、歩行器を手にしていなかったことである。部屋を出ると右側に二部屋続いて障子、その後トイレまでは壁に手摺があるが、障子で掴み歩きができない部分は左側のガラス戸(90cm幅×180cm高さ)4枚分(2間分の長さ)の内側に長い手摺が用意されている。

 ところが居室を背にして左のガラス戸1枚分だけ手摺がない。事故は運悪くそんなところで起こるものである。親父の説明では不自由な左半身の左手で手摺を掴もうとしたら、手が滑って掴み損ねたという。疑問なのは何故いつも歩行器で歩く人間が、杖も何も持たず手摺だけで歩こうとしたようである。間違いなく元気な時の夢でも見たに違いない。

 この夜も午前1時頃仮眠についた。暫くして何か水が急激に落ちたか、物の擦れるような音がしたような気がした。その時は私自身寝ぼけた感じで意識がはっきりしてしない。すると、そんな夢のような中で誰かのうめき声のようなものが聞こえる。しかも私の名前を呼び捨てしているような・・・。もしやと飛び起き現実に戻り、親父の居室に向かおうとした時、ガラス戸の縁を枕にする形で顔面血だらけの親父が倒れ、足の踏み場ない状態にガラスが飛び散っている。とにかく、後ろから抱きかかえ絨毯の上を引きずって、そのままソファーに寄りかからせた。本当は座らせたかったが、昨日のような蒟蒻状態で取扱いに苦労した。すると、私の胸に血がべっとり、よく見ると頭から血がドクドクと出ている。すぐにタオルで頭を固く縛ったが、一瞬のうちにタオルから滴(したた)り落ちる状態になった。止むを得ず119番通報、救急車で搬送をお願いし、私も着替えていつもの病院へ。

 抜糸が終わった状態
 抜糸が終わった状態

 田舎の古いタイプの大きなガラス戸に頭をぶつけたらしく、後頭部が2列の「リ」の字に切れ16 針も縫う大怪我である。恐らく親父の人生で最大の大怪我であろう。夜明けの4時半頃だったか縫合手術は無事終わり、ガラスの破片も頭には残っていないとのことで、「もうお帰りになってもいいですよ」と、包帯をぐるぐる巻きにされた親父を車椅子で渡された。

えっ?と思ったが、「午後から様子を診せにおいで下さい」と付け加えて、看護士は忙しそうに立ち去る。

せめて夜が明けるまで預かってくれればいいのに・・・と言いたいところだが、夜間にも拘わらず当直の薬剤師が院内薬局を臨時に開けてくれて、化膿止めや痛み止めも出してくれた。遠くでは、この病院に向かってくることが明らかな救急車のサイレンも聞こえるし、しぶしぶ連れて帰ることに……。

 救急車のお世話になったのも今回で3回目である。というわけで感謝の気持ちを込めて、社協の寄付とは別に市へ毎年少しばかりのふるさと納税(寄付)もしている。確定申告で減税を申請するための証明用の領収証が発行されるが、使ったことは一度もない。

 

食後に動けない・・・ 

 

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