老人介護のエピソード

 

(7)転倒の原因は誰にある?

 退院の前に、受け入れ体制はOKか、病院側とケアマネージャを含めた打ち合わせがあった。リハビリテーション病棟の担当看護士、家庭内看護の専門看護師、ケアマネージャとが実家を訪れての審査、打ち合わせである。問題もなくOKが出て即日退院になり、金曜日の夕方に親父を車で実家に連れ帰った。ベッドに寝かせ、やれやれこれでお見舞いに行かなくても済むようになったと安心したのも束(つか)の間のことになってしまった。

 荷物を降ろしている最中に病院の担当看護士からの電話。

「誠に申し訳ございません、お渡しする薬の一部を忘れていました」と。「では、直ぐもらいに……」と車を走らせ病院へ、実家に戻ってみれば、親父は玄関先の廊下で天井を向き赤子のように起き上がれず、「うーんうーん」と腹を押さえながらもがいてるではないか。

正に亀の甲をひっくり返した状態なのだ。痛々しい声の中からようやく話を聞けば、退院時の荷物を私が玄関の上がり口に置いたまま、家を飛び出したので杖をつきながらそれを片付けようとした親心らしい。

倒れたはずみに、先に部屋の隅に片付けてあった衣装ケースの角で肋骨をしたたか打ったようである。倒れた原因は足が十分に上がらず躓(つま)いたのだろうだが、障子を開けたままにした私も悪い。でも、開けていなかったら、障子のガラスに頭を突っ込みもっと大事故になっていたかも知れない。医師ではないが多少知識のある私は、痛いという場所を押さえて診断した。「お父さん、肋骨は折れていないようだからじっとしていればいい。痛みは1週間も我慢すれば治るから」と湿布をしておいた。

 骨のひびは医者だって手の出しようがない。固定して自然治癒を待つのみが常識である。オーバーな人は痛み止めを飲むが、そんなものは胃を悪くする程度でしかない。そうは言っても我慢できない程の痛みなら仕方がない。湿布程度は有効治療法のひとつだ。騒ぐことはない安静第一。但し、いつまでも痛いと騒いで動かないでいると、本当に筋肉が衰えて動けなくなるのも事実だから注意が必要である。お年寄りや神経痛、リウマチはそれで寝たきりになるケースが多い。

ところが、土日の2日間は辛抱したものの、やはり我慢できず月曜日に再び病院へ行き、X-ray 写真で確認、医者の診断では骨は折れていないというのは私と同だが、「ただ少しひびが入っているので少し入院して寝ておいていただきましょう」で終り。再び約10日間の入院、またしても私の病院通いが始まった。私が荷物を片付けて出かければよかったのか。看護士が薬を渡し忘れたのがいけないのか。あるいは、自分の身をわきまえずに片付けた親父が悪いのか。さて、転倒の原因は誰に?

 病院のリハビリで歩いていたとはいえ、体力はまだ十分に回復していないのに、半身不自由な体で少しでも私の負担を軽くと、優しい親心が災いしたハプニングとも言える。以来、親父にはいかなる荷物を持たせないようにした。そもそも杖をつくだけでも体のバランスは崩れるし、荷物を持てばなおのことである。


2度目の退院から数か月後、何故か臭い!

トイレからの緊急通報も鳴り始めた。

 

[Back]    [Next]