老人介護のエピソード

 

(20) ええ? 昨日、交換したばかりなのに・・・

 食事の際にトイレを我慢して食べる人は少ないだろう。健常者でも食事の時には用事を済ませて落ちついて食べたいものである。親父の場合はそれが徹底している。トイレは小用の場合でも時間がかかるから、10~15分前に準備するように言っているのだが…。

いつものことなのに、なかなか守られず直前になることが多い。どうも新しいことを覚えるという作業は、幾ら繰り返しても忘れやすいらしい。これはお年寄りの特徴のようで仕方がないこと、90歳を超えれば殆どの方がこんなものだろう。老々介護と言いながら、まだ若い自分(当時は60代前半?)だってその傾向がないとは言えない。

 亡くなる3年近く前のある日のこと、昼食の準備ができたので親父の居室に呼びに行った。この頃の昼食は家族がいるという理由で市の補助金が出る弁当を配達してもらうことはできない。だから、私が準備をしなければならない。しかし、親父は私に介護負荷をかけないための思いやりか、市販の弁当でいいから自分の分は買って来いという。だから一週間のうち半分以上は親父の分だけ弁当を買ってくる。弁当を買ってきても私の場合は、そのまま出すわけではないので少々手間がかかる。温かい美味しいものを食べさせるのは、親父に感謝の気持ちを込めた愛情である。おかずもすべて食器に盛り直し、ご飯だってその日の気分でサツマイモ入りの茶粥がいいということもある。いつも親父の注文を聞いて、ご飯にしたり茶粥にしたりしていた。

 話が逸れるが朝食は毎日サツマイモ入りの茶粥であり、これは私も一緒に同じものを食べることもある。古い時代の関西では昔から茶粥が食べられており、今でも山口や九州のお年寄りのいる家庭では粥が食べられている。料亭で飲んだ食事の最後には、焼いたカキ餅入りの茶粥が出るところもある。福岡などでは有名ホテルで朝食に粥を選択することもできるが、白粥で茶粥は出てこないようである。最近は粥が出ているかどうかも判らない。

茶粥も親父が飽きないように豆茶、ウーロン茶、焙じ茶、麦茶といろいろ工夫をする。サツマイモも小さく小さじ位の大きさに割って(これは親父の希望で、包丁できれいに切ったものは美味しくないという・・・事実そうであるが。)入れるので結構面倒なものである。

 さて、話を戻して居室に親父が居ないということは、トイレに決まっている。扉を開けると中では困った顔をしてゴソゴソしている。便器に腰掛けて小用を足している際に、オナラが出そうになり自分では気持ちよく力(りき)んだつもりだったらしい。小用の際にオナラが一緒に出ることはよくあることだ。ただ、問題は小用のつもりでパンツをきちんと脱がないまま腰を掛けていたので大変! 

読者のご想像の通り、いつも制御の利(き)かない、活躍してくれない括約筋が災いした。変なところまで飛び散ってしまい、パンツは大したことはないがお尻の周りが・・・。

便器の洗浄・乾燥装置は役に立たない状況で、人為作業で清浄化してやらねばならない状態である。ざっと汚物をふき取り、親父をトイレの外に出して待たせ、私は着替えのパンツと消毒用アルコールと専用に用意してある布きれを取りに行った。もう一度、私がきれいにしてやるつもりだった。
1分足らずで戻ってきたら、「ええっ? 昨日その座布団を交換したばかりなのに・・・」 親父「・・・・・・」立っているのが我慢できず、そばの椅子に座ってしまったようだ。 でも、ひと言も苦言は発しなかったが、内心、本当に悔しい思いがこみ上げてきた。

 実は数日前にも汚物騒動があり、例の「括約筋」が「活躍」しないために座布団を汚してしまい、新しいものに交換したばかりである。その座布団は椅子専用のサイズで、一般のものより小さいタイプでこんなこともあろうかと2枚買っておいた2枚目である。まさか、翌日こんな目に遭うとは!


重さ約60kgの蒟蒻は重い!

 

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