7. 天然保存料(その2) 

 保存に関して昔の人がしたことは、微生物の適温度帯での活動を抑制するために冷暗所に保存したり、茹でるなど加熱殺菌をした。時代が新しくなると塩蔵という手法も思いついた。梅の伝来は中国からと記憶するが、詳しくは調べてはいない。古事記が成立(712年)する200年余り前の「斉民要術」に梅の塩漬けが記録されていることから、日本でも歴史は古いようだ。鎌倉時代から江戸時代にかけて梅干しが盛んに利用されるようになった。

温度管理

一般細菌は0~30℃程度で繁殖しやすく、カビや酵母は10~40℃程度で繁殖しやすい。胞子の場合で120℃ 10~120分で死滅し、多くの菌類は60℃ 10分~30分程度で死滅する。カビ胞子で60℃ 5~10分程度で死滅、酵母なら 60℃10分程度で死滅する。

食中毒菌の例では、大体下記の温度で死滅する。

 サルモネラ    62℃30分で死滅
 腸炎ビブリオ   60℃10分で死滅
 カンピロバクター 60℃30分で死滅
 病原大腸菌    75℃1分で死滅
 ブドウ球菌    80℃30分で死滅
 ボツリヌス菌   121℃4分で死滅(F値=4と表現する)

 専門的にはF値で表し、レトルト食品の殺菌強度を規定するもので、 121 ℃、1分 をF値=1と定義。 レトルト食品の場合、食品衛生法では4以上(121℃、4分以上)の殺菌強度と規定されているが、これ以上は病院や食品関係者だけしか理解できないであろうからやめておく。

冷凍保存もうまく利用すれば、野菜でもでんぷん質でも保存できるものは多い。冷凍の場合は瞬間凍結が最大のコツである。

余談だがアルコール分を含むものは凍結しにくいので、品質の保持が簡単である。例えば、ブランデーケーキなどは、凍結後でも比較的柔らかい。

水分管理

 は浸透圧が強く微生物の細胞膜まで入り水分を追い出してしまうし、砂糖も同様に親水性が良く微生物が必要とする自由水分を奪ってしまうという理屈を知っていたか否か知らないが、昔の人はその効果を利用して保存料としていたのである。

水分活性とは食品の飽和蒸気圧と純水の飽和蒸気圧の比を意味するが、細菌は1.00~0.95、カビは1.00~0.75程度で生育する。もちろん完全乾燥品では 0 である。つまり、食品が液状であっても微生物に必要な蛋白質や糖質に結合していない自由水分がなければ生きられない。細菌では水分約15%以下で生育できないが、カビは乾燥に強く13%程度でも生育できる

米の硬質米がこの程度であるが、カビが生えることがある。コシヒカリなどの軟質米になると15~16%の水分があり、保管の温度状態によっては傷みやすい。

塩分管理

 醤油は塩分濃度13~15%のものなら常温で長期保存が可能になっているが、減塩醤油の8~10%などのものは、保存料を入れないと長期保存は不可能である。

腸炎ビブリオ菌は海水中でよく増殖するし、黄色ブドウ球菌も結構耐塩性が高いと言われており、温度環境次第では油断できない悪質なヤツである。漬け物や調味料では、塩分が通常13%~22%である。これらの基本を知っておけば、沢庵や梅干しなどどんな保存食品も簡単につくられる。

但し、塩蔵品は数の子の塩抜きでご存知のように、塩抜きが非常に難しく少し誤ると味まで抜けてしまうので要注意である。できれば、食品は塩蔵での長期保存を考えずに早めに食べるのが理想的である。

糖分管理

 砂糖はその親水性によりカビ、細菌の増殖に必要な自由水分を吸収して繁殖できないようにする。糖分(砂糖)重量比で65~70%以上なら常温でも長期保存ができる。一般的にはジャムや果実酒を作る場には同量比と言われているが、あれは砂糖を売るための口上かも知れない。ただ、原料にもよるので一概には言えない。

我が家では何年も甘さを抑えるためにジャムも梅酒も70%にしているが、失敗したことがない。もちろん、保存容器はしっかり殺菌して使っている。また砂糖は親水性のほかに pH 調整をする効果も期待でき、これらの相乗効果により保存性を高めていると言える。この親水性はタンパク質(コラーゲン)と馴染みやすいので、砂糖を揉み込むと肉が柔らかくなる。

実は砂糖は親水性が良いために十分な水分があれば、溶かした水と同じ pH になる性質がある。市販されている加工食品の殆どは、添加物等でほぼ中性(pH7)に調整してある。但し、ジュース、コーラや栄養ドリンクは pH 値が 2~3 と低いので、飲んだ後にうがいをしないと早く歯を痛める。

pH管理

 酢は pH を下げる効果により殺菌又は増殖困難にするわけであるが、これも昔の人は偶然に発見したのだろうか。よく思いついたものだ。

普通は穀物酢の方が果実酒に比べて pH が低い。pH が低いほど酸味(すっぱさ)が強くなる。ちなみに一般的な食酢は pH3 前後、胃液やレモンは pH2 なので、酢を飲んでも胃液は強酸(塩酸、pH2))だから胃が溶けることはないがそのままでは飲みづらい。

微生物もいろいろで強酸の塩酸や硫酸の中でも増殖する菌がいるが、一般に上記のような食中毒菌は低いpHには弱いと考えてよい。一般細菌は pH5~9 程度、乳酸菌は 3.5~8.5 程度、カビは pH2~8 程度で生育する。食物の保存では、pH を 4 以下にすることで、乳酸発酵以外の発酵を押さえることができる。

 塩分の少ない漬物が酸っぱくなるのは乳酸菌発酵なので全く心配はない。むしろ健康に良いと言ってもいい。ご飯を炊くときに米2合に小さじ1杯の割合で酢を入れると、防腐効果が出てくる。もちろん食べる時に酢の匂いはない。歯のエナメル質は pH5.5 から溶け始める。食後数分後には口内菌(主に乳酸菌)は活動し酸で歯を溶かし始める。多くの場合食後にすぐ歯を磨くことはできない。食後のくつろいだ余韻や満足感が失せてしまう。だからせめてお茶ぐらいは飲んでおいた方がいい。

どの調味料も詳しく書くと、本が何冊もできてしまうからこの辺にし、次回は危険な保存料について考えてみることにする。

 

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