6. 天然保存料(その1)

 食品の保存技術は大きく分けても数10通りもあり、ここに羅列しても説明が大変なので割愛するが、ものが腐るということは、微生物が生きているからである。一般的に食品には何らかの雑菌が含まれ、無菌のものは存在しないと考えてよい。加工食品でも完全な無菌食品を作るのは難しい。

 私たちの体の中には数多くの常在菌が住んでいるが、何かのはずみでそのどれかが異常繁殖すると大変なことになる。生食のものならさらに危険性が増える。その中にたまたま食中毒や臓器に潰瘍を起こすような菌が含まれていると問題になる。挙げるとキリがないが、腸炎ビブリオ菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、ポツリヌスキン、赤痢菌、コレラ菌、カンピロバクター、O157に代表されるような病原性大腸菌等々がある。どれも耳にすることが多いものばかりだが、それらが存在しなかったり、少なければ被害を免れるに過ぎない。

それらの増殖を防いで彼らが出す毒性、あるいは本来持っている危害機能を抑えることが防腐効果につながる。

 昔の人は偉い! 代表的な調味料である砂糖、塩、酢をもってそれらをコントロールしていたのである。

例えば、砂糖なら羊羹やジャム、果実酒がその例である。塩は、味噌や醤油、魚介類や海藻の塩蔵、梅干し、漬物など。酢は酢漬け、魚の酢ジメ、それぞれ防腐効果や抗菌効果を持っている。もっと身近には寿司ご飯、塩をまぶしたおにぎりや酢の物などがある。では、その謎に highdy 得意の理屈で迫ってみよう。

基本的には、微生物の増殖を制御する次の3つが大きなキーポイントである。早い話、消火するには① 燃えるものを無くする。② 酸素を無くする。③ 温度を下げる。といった理屈に似た簡単なことである。

1)温 度

 ヒトも環境温度に上下の限界があるように生物にも適温があり、その範囲外にすることにより生命を維持困難にしてやれる。場合によっては殺菌や滅菌をしてやることができる。

   参考資料 滅菌・殺菌・消毒・除菌・抗菌 に関しては別稿を参照。

2)水分活性 

 生物は水分がなければ生きられない。人間だって少し水分が足りなくなると脱水症状になり、場合によっては死に至る。従い水分活性を下げれば増殖できない。

3)pH(ペーハー

 ヒトは酸にもアルカリにも弱いが、微生物ではいろいろな耐性のものがいる。が、総じて低い方には弱いものである。

このシリーズは長丁場になりそうなので、ちょっと脱線しよう!

「酢は酸っぱいワイン」のことである。

英語で酢のことを、VINEGAR(ヴィネガー)というが、語源はフランス語のvin(ワイン)とaigre(酸っぱい)からきているそうだ。つまり、酸っぱいワインということになる。従い、ブドウが原料のワインヴィネガーは高級酢ということになるかな?

酒(アルコール)が酢酸発酵したものが、ヴィネガー(酢)の元である。どうやら、酢は保存していた酒が偶然変化してできたものらしい。

日本語はうまくできていて、で作ると書いてと表現している。酢は酒のアルコールが、酢酸に変化したものを意味している。

酢の話ついでに、空腹時の摂取はよくない。理由は空腹時胃液の酸度が上がっているので、できるだけ食中・食後の方がよい。巷では酢の効用が何万と書かれ、特に美容・健康に関するものが多いが副作用もないわけでもない。酢にはドロドロの血液をサラサラにする効果が見込めるが、摂取し過ぎるとサラサラを通り越して“赤血球を破壊”してしまう可能性があり、「溶血性貧血」の原因になると言われている。

酢は塩と同じようにタンパク質を引き締める効果があるからかも知れない。何事もほどほどが肝心である。内蔵型冷え性の方は酢を飲むときに温めて飲むことも必要になる。

 もう一つ脱線ついでに、少し塩の効果も加えよう。ご存知のように焼き魚の前に塩を振っておくのは、タンパク質の筋収縮細胞であるアクチンやミオシンを引き締めるためである。

昔から魚の鮮度によって食べ方の基本がある。① 新しいものは生(刺身)で、② 少し古くなったら酢でしめて、③ さらに古くなったら煮物で、④ もっと古くなったら、しっかり塩をして焼き物でという順番である。

もっとも、鮮度のよいものはどんな食べ方をして美味しい。冷蔵庫を持たなかった古代人の生活の知恵だろう。

次回は本原稿の続きで、一部専門的な内容も含まれるが実用的な説明が多くしよう。

 

[Back]        [Next]

 

食べ物のお話シーズ Top